Brighten Brand Note - BBmedia inc. 社長 佐野真一のブログ

BBmedia inc. 社長 佐野真一のブログ

青梅で出会った幸せ

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平成の終わりとともに、吉川英治記念館が3月に閉館しました。42年間の歴史に幕を閉じるとあっていつか訪ねたいと思いながらパスしていた自分を反省し、閉館を目前に青梅まで行ってきました。吉川英治と言えば、宮本武蔵や新平家物語などの作品をはじめとした昭和の大作家、昭和生まれの日本人にとって知らない人はおそらくいないかと思います。この記念館は英治の死後だいぶ経った昭和52年3月、当時の講談社の野間社長の発案で吉川文子夫人の賛同を得て開館しました。戦時中の昭和19年に一家が疎開してから9年半を過ごした場所でもあります。椎の木のある庭園と築100年以上の古民家とともに当時の吉川家の生活が偲ばれるだけでなく9000点に及ぶ資料が保存されていました。

私自身、吉川文学の大ファンという訳ではないのですが、吉川英治の言葉や生き方に昔から深く共感しています。例えば、今失われている日本人の幸せ感についてこんな名言があります。「登山の目標は山頂と決まっているけれど、人生の面白さは山頂にはなく、むしろかえって山の中腹にある」つまり、幸せのゴールはなく、今現在にある。という考え方です。他にも「晴れた日は晴れを愛して、雨の日は雨を愛す」、「職業に貴賎はない、どんな職業に従事していてもその職業になりきっている人は美しい」、「人と人との応接は、要するに鏡のようなものである。傲慢は傲慢を映し、謙遜は謙遜を映す」、など、人の幸せは人の心のどこかに常に存在し、心の持ちようで決まるというポジティブシンキングに通じる言葉です。

結婚式のスピーチでよく引用する吉川英治の言葉があります。これは尊敬する先輩ご夫妻からかつて教えていただいた「忘れ残りの記」を読んで、あとがきにある文子夫人の回想録に書かれていたご家族でゴルフをした時の一節から拾ったものです。

「文子、僕らは幸せだなあ・・・人間というものは身近にある素晴らしい瞬間を幸せと気づかずに過ごしてしまう。なんでもないと思って見過ごしてしまう幸せをかみしめることが大切なんだ。」

記念館を訪れた際、屋根裏部屋を見学させていただいたら英治が使っていたゴルフクラブがなんとそこに置いてありました。ゴルフ場の陽だまりの情景が思わずふと目の前に浮かんできました。

信頼のスコア

 

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人は何かを信頼したいという気持ちを持たずにはいられない動物です。一方で、世界的に大規模な「信頼危機」が起きています。米国では、政府に対する信頼が30%ダウン、メディアに対する信頼が23%ダウン、ビジネス(企業)に対する信頼が20%ダウン、NGOに対する信頼でさえも22%ダウンという有り様とエデルマン社のジェイミー氏が述べています。

こうした信頼低下を表す数値の根底には何があるのでしょうか。原因の一つは「情報に対する不信感」の存在ではないかと思います。特にインターネット上で広まるニュースにおいて信頼できる組織や人によってプロデュースされているのかはっきりせず、出所までよく確かめずになんとなく刷り込まれていきます。日本人はかつて太平洋戦争中、大本営発表という虚偽の報道によって多くの国民が騙された苦い経験を持っています。今は出所は一つでなくなった反面、情報の量、スピードについていけなくなった多くの人々が悪意を持った発信者に惑わされています。また、フェイクやなりすまし情報も依然として見分けがつきにくい状況です。

こうした中でブランドは今、何をすべきでしょうか。まず、信頼を社会のニーズと捉えなおすことだと思います。不信や混乱に対して顧客は自分が使うブランドに信頼をより求めていきます。従ってブランドはコンテンツやコミュニケーションをより掘り下げていく必要があります。つぎにブランドはより善良でなければなりません。ロイヤルティ構築のための社会貢献ではなく、「これをするのは良いことだから」という人格が信頼につながります。そして顧客や社会とのアクセシビリティをより高めながら信頼の企業文化を育んでいくことが重要です。米国最大のドラックストアのひとつであるウォルグリーンは創業者チャールズウォルグリーンの「やさしさ」と「親切」を信条として、現在も障害を持つ従業員数が最大規模の企業の一つです。倉庫で働く人々の11%が何らかの障害を持っているそうです。他にも地域のコミュニティとの連携や国連と共同で3千万人の子供にワクチンを毎年提供しています。こうした活動を行っている企業やブランドはたとえ不祥事が起きても迅速な対応ができるとともに顧客や社会から復活の応援も得やすくなるのではないかと思います。

つながりあった世界で生きる消費者は本当は混乱ではなく、平穏を求めています。今後世界は精神的健全性を守り、デジタルのノイズからある程度距離を置きながら便利さや快適さを追求していく方向により進んでいくと思います。

ハサミとAI

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人間は太古の昔からいろいろな道具を発明してきました。その中で今も秀逸な道具のひとつがハサミだと私は思います。現存する最古のハサミは紀元前の古代ギリシャ時代のものとされ、日本で洋バサミと言われる形状が生まれたのは西洋では古代ローマ、東洋では唐の時代といわれます。誰もが幼児のころから使っている道具は無意識でも扱えるだけでなく、失くしてみないと有難さすら感じなくなる必需品となります。これを現代に置き換えてみましょう。可能性からいえば、これからの身近な道具の筆頭はAIを搭載したIOTではないかと思います。AIスピーカーをはじめハイテク道具を幼児から接して大人になった人間は以前とは違う感覚を当たり前のようにストレスなく無意識に持つようになります。ただ、ハサミのように何世代にも渡って身近に使われている道具はそんなに多くありません。果たしてAIスピーカーとどのくらい長く人類は付き合っていけるのでしょうか。

ハサミと言えばあるAIのレポートを読んでいてふと興味深い記述を見つけました。「ハサミは何世紀もの間、右利き用に設計され、右利きの人に使用されていました。それがバイアスであること、左利き用のハサミを作る必要性をなかなか認識されなかった」へえ~。今も左利きか右利きかでもっとも違いがある文具のひとつがハサミです。ハンドルの形状が違うだけではなくて2枚のハサミの刃の合わせ方にも違いがあるそうです。きちんと切り口が見えるか、指の力がしっかり伝わるか、左利きは人口の10%と言われます。人は主流派、メジャー側にいるとマイナーなグループの体験には気づきにくいのです。

近い将来、あらゆる規模の企業がディープラーニングを使ったソフトウェアでデータを収集し、人間の目では見つからなかった有益な情報をアウトプットするという楽観的な見通しだけでは甘いような気がします。AIはデータの良しあしによって決まります。データにはバイアスがあり、その正体は人間の偏見から生まれています。現状もっともパワフルなアルゴニズムでさえ公平・公正の定義に対して最適化されていないのです。ということはAIテクノロジーのバイアスも人間と文明と同じぐらい深いと認識すべきです。

大きく変わるデジタル世界

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2019年がスタートしました。世の中では忙しい一年になると言われていますが、荒れ模様ながらも光明が輝く年にしたいと思います。さて、今年がどんな一年になるか、アナリストや未来思想家などがホットなトレンドを発表しています。今回はその辺りを踏まえてブランドがとるべき行動について述べさせていただきます。

①もうひとつの価値交換

消費者は今までベネフィットの対価としてブランドにお金を支払っていました。ここにきてもうひとつの価値交換が生まれています。それが消費者自身のデータとそれに見合う消費者にとってのバリューです。今後、消費者はデータを無造作で出すことにより慎重になることでしょう。なぜならば、アプリやキャッシュレスなどから生成されるデータの影響を身近かに感じ始めたこと、一方でデータの扱い方、個人情報に対するずさんなアプローチに対して厳しい見方をするようになったからです。ブランドはこうした新たな認識に立たねばなりません。

ソーシャルメディアに潮目

SNSのプライバシー、依存によるダメージ、不正利用、社会混乱のニュースが後を絶ちません。米国ではソーシャルメディアと縁を切る判断をする消費者が増えています。最近ある業界誌が行ったジェネレーションZに対する調査では18歳以上のフェイスブックユーザーの42%が2018年に数週間以上のネット断ちをしたことが明らかになったと報じています。全体としては今年も広告支援型のソーシャルプラットフォームはまだ伸びると思いますが、ブランドは消費者と同じくそこに無駄な労力と時間をかけすぎないよう注意が必要です。

③モノからコトだけでない

買い物客がほんとうに何を欲しがっているか、買い物客のバリューについてWalgreens社CMOのホリック氏は「重要なのはモノではなく、経済的に責任感を持った商品であるかどうか、ストレスの少ない生活をもたらすかどうか、自分・家族・コミュニティなど自分の世界にとって成長や幸せにつながるかどうか」と述べています。消費者のこの変化の根本には「自分の時間」のバリューを大きくしたいというニーズがあるような気がします。ブランドはただ体験を作るだけでなく、「幸せの体験」をデザインできることがより重要となるでしょう。

2019年は昨年以上にデジタルの中身が大きく変化していくのではないかと感じています。変わらないのはテクノロジー人間性を見据えたアイデアからイノベーションを生み出せるブランドが成長を遂げていくことだと思います。

さようなら平成

今年も残すところ数日となりました。忘年会のピークを越えてクリスマスが終わると一気に師走のムードに突入します。2018年は平成30年という年月と憲政史上初となる退位という日本の歴史にかつてない出来事であり、平成最後の年末年始は何か特別な雰囲気に包まれている気がします。

30年はちょうど一世代にたとえることができます。今の天皇陛下は55歳で即位され85歳で退位なされますが、私の両親の世代にとっての思いは同世代ということでさらに感慨深いに違いありません。私事ですが、30年前30歳というバリバリの時期にあったせいもあって平成の30年間はエキサイティングだったと今振り返ると思います。まだ、携帯電話はおろかパソコンもなく、会社では不細工なワープロしかありませんでした。世の中はバブル景気に酔いしれていて、不動産やゴルフ場の会員権が高騰して、高いローンを組んでまでも家やマンションを買わないと一生家を持てないというムードでした。深夜残業は当たり前で夜中までタクシーを拾えない毎日だったと記憶しています。5年後、10年後は何となく予想したり、まだイメージを描けるでしょうが、30年となるとほとんどの人が予想外、あるいは思いもしなかった出来事を経験しているはずです。実際、バブルは崩壊し、阪神淡路の大震災、地下鉄サリン事件東日本大震災、海外では9:11の同時多発テロなど、一方、日本のノーベル賞受賞者数、コンビニ100円おにきりの美味しさ、スマホで何でもできること、などどれも私にとっては想像できない出来事でした。

さて、最後に先日の天皇陛下の会見で「平成が戦争のなかったことで安堵しています」と述べられたことにはドキッとしました。ご存知の方も多いインディアンの有名なセブンスジェネレーション(7代先のことまで考えて今の生活を行うべき)の掟というのがあります。血だけに頼らず子孫に伝えるにはこうした哲学が必要です。しかし残念ながらこうした掟があっても外的な環境変化(戦争)によってインディアンは駆逐されてしまいました。私も含めてまもなく戦争を知らない平和が当たり前としか思っていない世代だけになっていきます。おそらく30年後にはゼロになるでしょう。いつの間にか手遅れになったり、そのとき誰かが何とかしてくれるだろうというのはとても危険な考えです。

平成の30年間を振り返ってこれからの30年間を考えることは(年号を持っている)日本人にとって他の国々の人にない視点を持てるメリットとも言えます。

 

 

 

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人が買い物に求めること

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「現代の買い物客は何を求めているのでしょうか?」この質問に答えるにあたってウォールマートの最近の動きを見てみましょう。アマゾンが台頭する中、ウォールマートは米国内4000店舗のうち1000店舗以上で食品などの注文をドライブスルーで受け取れるサービスを導入、数百店舗には自動キオスクを設置しています。先週訪問したウッドブリッジにあるウォールマートは2年前まで店の一番奥にあったオンラインで注文したものを受け取るPICKUPコーナーが店を入ったレジ近くに移動していました。

ウォールマート流に言えば「お金の節約とよりよい生活」、食品スーパーで言うならば実店舗における「清潔・迅速・フレンドリー」+「価格・品質」だけでなく、今までに加えて「新たな利便性」を誰もが求めるようになったのです。小売の未来に影響するさらなるテーマとしては「情報・商品・サービスのオンデマンドでの入手」、「商品やサービスに面倒でなく快適にアクセスできる可能性向上」が取り上げられています。Walmart.comでは買い物体験の改善に向けてHave it  Find it  Display it  Price it  Deliver it といった5つの指標(customer value index)を設けています。

こうした動きの底流には実店舗とオンラインの垣根を越えて消費者の習慣が変化し続けている状況があります。テクノロジーの進化が後押ししているわけで日本でも近々急激に高まることが予想されるキャッシュレス化もそのひとつです。

さて、ここでもう一つ現代の消費者が買い物に何を求めているかについて述べたいと思います。それは「偶然の出会い」、「発見する体験」だそうです。今に始まったことでない気がしますが、利便性が高まるほど逆にクローズアップされるのかもしれません。確かに興味深い商品の新たな発見は予想外であるほど嬉しいですね。ちょっと逆説的ですが、きっと偶然だからに違いありません。では、偶然を必然に変えるにはどうすればいいのでしょうか?たとえば、9月にニューヨークにオープンしたばかりのアマゾン4スター、ここは文字通り購入した人のレビューが高い商品だけを品揃えしています。自分が知らない優れものを見つけるのは良い場所です。

一夫一婦は妄想と心得よ

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ブランドマネジャーにとって愛用者を増やすとともに自社ブランドに対する顧客のロイヤルティをあげる戦略は王道と呼べるでしょう。80:20の法則のセオリーからもブランドロイヤリティ戦略は正しいとされてきました。ライフタイムバリューを考えれば、ブランドへの忠誠心を持つユーザーを増やすことは売り上げ・利益ともにプラスに働きます。我が家では発売以来ずっと「南アルプスの天然水」を自宅で購入してきました。ミネラルウォーターだけで累計購入金額はなんと60万円以上という計算になります。

しかし、ロイヤルユーザーはマーケティング費用をどんなにかけてもそれほど多くはならないという意見があります。南オーストラリア大学のバイロン・シャープ教授が示したブランド理論は型破りで賛否両論あるものの目から鱗が落ちました。その中でもっとも印象深いのはブランドとユーザーとの関係です。ブランドマネジャーはブランドとユーザーの関係を「一夫一婦」と考えようと勘違いしますが、ユーザー側は基本「一夫多妻」としか考えていません。例えば高級腕時計市場を思い浮かべるとイメージがつかめます。パテックフィリップ、オーデマピゲをはじめずらりとブランドがあって、マニアの多くはいくつも所有しています。そう言えば、我が家の浴室には数種類のシャンプーやコンディショナーが無造作に置いてあります。歯磨き粉は3種類を朝・夜で使い分けています。イギリスにおけるコカ・コーラ購入者のおよそ半分は年に1、2本しか買わず、平均的なコカ・コーラ購入者でもせいぜい12本とのことです。ということは他の飲料ブランドを飲んでいるわけです。実際にコカ・コーラを飲む人の半数以上はダイエットコーク、ファンタ、ペプシも買っているとのことです。ブランドはヘビーユーザーを守りながらライトユーザーに少し多く飲んでもらうことに力を入れるべきと言えます。

これからの消費者は今まで以上にブランド側が決めつけたカテゴリーやブランド価値には従わないようになるでしょう。ブランドはユーザーの興味・関心がないジャンルでは購入判断を楽にしたいという潜在欲求に今以上に対応することが求められます。一方、こだわりを持つジャンルではTPOに合わせて自分なりの上質な生活シーンを送りたいとユーザーが欲する時に必要とされるブランドをより目指さなければなりません。人の世界と違ってブランドは常にユーザーに対して片思いであり、常に振り向いてもらう努力が必要なのです。