Brighten Brand Note - BBmedia inc. 社長 佐野真一のブログ

BBmedia inc. 社長 佐野真一のブログ

困難な時のメッセージ

 

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 世界でパンダミックがまだ果てしなく続いている一方で、日本は外出制限の緩和とともに「新常態」という言葉をもって経済の正常化をはかるフェイズに入りました。といっても、例えば飲食店やバーは最も直接的な課題を抱えています。人々が家にいて、バーを避けるようになっている中、アルコールブランドはどんなメッセージを発したらよいのでしょうか。

広告の名手ギネスは3月「聖パトリックの日のお祭り」を題材にしたブランドメッセージを流しました。「私たちはすべて同じ人間であることを忘れないようにしましょう。重要なのは、あなたが気にしている人々と一緒にいるということです。あなたがパブでお祝いしようと、自宅に招かろうにかかわらず、あなたの周りの人々を友人や家族と呼ぶことができれば、あなたはすでに勝っています」。広告では特にコロナウイルスに言及することはありませんが、休日が今年は例年と同じにならないという事実を暗示し、コロナに負けない気持ちを表しています。「心配しないで、私たちは再び行進します」と。

元々広告メッセージは平和な社会で人々の安全・安心が守られている世の中でフルに機能します。ブランドは今をどう理解して何をすべきか、どんなメッセージが有益で人々の心を捉えるのか、社会が困難な時、ブランドの行動とメッセージは?欧米のトップブランドが今回のパンダミックな非常時にどんなメッセージを発しているかを見てみましょう。

① 励まし:パンダミックな状況下でブランドの存在を示す 例えば、コカコーラのWe will get  through this   ギネスのWe will march again 

② 行動の喚起:感染防止のコミュニケーションに置き換える 例えば、フォードのVirus  prevention communication  

③ 社会活動の告知:社会や人々のために何らしか貢献する  例えば、LVMHのサニテーション製品の製造 ウォールマートのgiving up parking lots for mobile testing centers 

④ 事業・サービスの告知:重要なサービスや変更のお知らせをする  例えば、Marc Jacobsのストアポリシー Alaska airlineのフライト変更手数料について 

などいくつかのパターンが挙げられます。

日本ではACジャパンがこの役割を担っているという特殊事情がありますが、ブランドの発信がやや少ないような気がします。2011年の東日本大震災の時はサントリーの「上を向いて歩こう」のCMはACしか流れない暗い世相の中で人々を元気づけました。直近のBOSS「宇宙人ジョーンズ:宇宙人からのアドバイス」は感染予防と新しい生活様式の勧めをユーモアを交え秀逸に伝えています。また、サントリーは「さきめし」といった飲食店支援プログラムも行っています。https://www.sakimeshi.com/

今回の感染症は欧米先進国での人命被害が日本と比較にならないほど甚大であり、国内ブランドとの温度差があることも一因かもしれません。また、日本人の国民性として陰徳というべき「言ったらおしまい」という慎ましさも影響しているかもしれません。只、コロナウイルスの被害が長期に及ぶことを考慮すると、困難な時のメッセージ(当然、行動を伴いながら)を自分自身のブランドらしくもっと積極的に発信して欲しいものです。

 

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一緒で一人

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緊急事態というよりも異常事態と言っていいのではないでしょうか。夢と魔法の国ディズニーランドを創ったウォルトディズニーは果たして「今」を想像できたでしょうか。先日米国ディズニー本社は世界で働く223000人以上の社員のうちすべての事業部にまたがった従業員の一時帰休を発表しました。上海、香港のディズニーランドは米国でウイルスの猛威が始まる前から閉園し、先月フロリダのディズニーワールドとアナハイムのディズニーランドをそれぞれ閉めました。東京ディズニーリゾートもご存じのとおり臨時休園が続いています。さらにディズニーでは映画館の営業停止、製作の延期、プロスポーツの休止によるESPN放送収入の減少、と全世界に広がったコロナウイルスによって甚大な損害が出ています。中国はコロナウイルス感染克服宣言を出したようですが、再開はディズニーストアにとどまっています。

いつになったら開園できるかどうかわからない状況は不特定の人と人との接触が安全となるまでは続くのではないかと危惧します。ワクチンができるか、多くの人々に抗体ができるか、それまである程度の時間がかかることを覚悟しなければなりません。仮に早期にオープンできても一部のアトラクションは再稼働できなかったり、入場制限を行わざるを得ないかもしれません。

多くの人々にとって外出制限という初めての体験は長引くほどに社会を痛めつけていきます。自ずと人々は日々の生活や仕事を維持しなければならないのでリモートワークやEコマースの流れは一気に加速していくでしょう。さらに従来法律で押さえつけられていたオンライン医療やオンライン授業、選挙の仕方から承認システムに至るまで非接触型によるサービスが問答無用で広がっていくでしょう。在宅勤務のニーズは満員電車やバスでの通勤がもはや元には戻らないところから生じてくるに違いありません。

おおげさかもしれませんが、戦前・戦後と呼んできた第2次世界大戦の記憶が薄れたかわりに新しい強敵ウイルスを体験したかしないかコロナ前・コロナ後(BC・AC)と呼ばれるようになるかもしれません。確かに政府の対応を見ても従来の発想の延長ではウイルスのスピードについていけず、後手後手に回ってしまっています。

リモートワークをしていると非接触型オンラインでのやりとりの良さ、物足りなさ、疲れ、を感じます。コロナと闘っているうちに5Gの登場によって新しいニーズを実現しやすくなる世界がやってくるかもしれません。しかしながら、「人と会うな、近づくな」という外出制限の異常さが決してニューノーマルにはなってほしくないと思います。人がいないガラガラのディズニーランドはやっぱりちょっと寂しい、、。早く人と人との接触を気にせずに、みんなで過ごせる日常が戻ることを願うばかりです。

でも今、一番大切なのは、ALONE TOGETHERです。

ご一緒に頑張りましょう!

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コロナショックに立ち向かう

 


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昨日、東京都心の桜は今年全国で最も早い満開を迎えました。いつもながら春の訪れは多くの人々の心を明るくしてくれますね。正直コロナウイルスなんて自然は全く気にしていないんだと木々や草花に元気をもらいました。実は14日の開花宣言から3日後にあった首相会見を緊張感を持って聞いていました。もしかすると非常事態宣言が行われるかもしれないという情報があったからです。

幸いにして国内での非常事態宣言は免れましたが依然として瀬戸際の状況が続いています。連日の報道によるイタリアをはじめとするヨーロッパ諸国や米国の様子を見て事の重大さを思い知るばかりです。今回の事態は初期の対処の悪さはもとより世界全体が新型ウイルスを甘く見てしまったことが最大の原因かと思われます。各国の行動で悪かった点、良かった点をぜひとも教訓として未来につなげてほしいと思います。それにしても日本のマスク、消毒液不足となかなか受けさせてくれないウイルス検査システムには合点がいきません。台湾のようなマスク配給システムや韓国や米国のような車内での簡易検査をしないのは何故でしょうか。ようやく規制されつつありますが、ネットや店舗における高額なマスクの転売などは全くいただけませんね。むしろプラットフォーマーや大手通販サイトはこうした事態を自ら監視して防止すべきだったかと思います。

東日本大震災の時には苦難を皆で乗り越えていこうとする支援活動が至る所から生じました。今回の新型コロナについても何ができるか、自らが感染者にならない行動をとるだけでなく、感染者や疑いのある人々を排除しない心をもって社会経済をできるだけ維持し、一日も早い落ち着きを取り戻すよう努力しなければなりません。今回は直接の感染者はもとよりモノと人の移動を大きく制限されることで観光業をはじめとして多くの産業に大きなダメージを与えつつあります。長引くほど全産業へ波及していくと思われます。国家による大型の経済対策、救済策は言うまでもなく必要でしょう。一方、個人レベルでも世界中の多くの人々がSNSやオンライン動画を通じて人々の団結と勇気を持てるようなメッセージや音楽を送っています。昨日アップされたニールダイヤモンドのスイートキャロラインの替え歌はたった1日ですでに900万回近く再生されています。

もちろんブランドも黙ってはいません。米国通信大手のベライゾン社は「We are here. And we are ready」としてコロナウイルスの影響を被った住居人や小規模事業会社、教育機関救急救命士や応急施設への支援を発表しました。また、英国酒類大手ディアジオ社は自社で扱うアルコールを消毒液メーカー支援として寄付する決定をしました。「近づけない、医療に従事していない、何をしたら良いかわからない」と何もできないと最初から思わずスコープを広げるとブランドにとってもやるべき行動が何らしか見えてくると思います。

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人の進化と困りごと

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新型コロナウイルスは世界中の人々に新たなリスクを見せつけています。グローバリズムが進み人やモノの行き来がはるかに拡大した経済や社会のなかで人々は生きています。一方、未解明のウイルスへの対応は各国バラバラで後手に回り人々の不安が増しています。セルフィッシュジーン(動物が持っている利己的遺伝子)による差別などに繋がらないことを願うばかりです。今回の脅威を人類は乗り越えられると確信しますが、サステナブルの観点からみても今後「手ごわい問題」のひとつになっていくに違いありません。

2009年にティム・ブラウン氏が書いた「Changed by Design:デザイン思考が世界を変える」と題した本が出版されました。この本はビジネスと社会が直面する課題を視野を広げて捉えなおし、人間中心の創造的なアプローチは問題解決に有効で、デザイン思考はデザイナーだけでなくすべての人が習得できるという視座を提供しました。それから約10年が経過し、デザイン思考は多くの組織で取り入れられるようになりました。

しかし、「手ごわい問題」はより顕在化しています。新型コロナウイルスだけではなく、たとえば、テクノロジーの進化による新しい社会やビジネスモデルには負の側面があること、直線型経済で得られた物質的豊かさの副産物である排出や廃棄が自らの環境を破壊してしまうことなどです。(ユニリーバ社アラン・コーベCEOは人間が劇的な対策を今すぐとらなければ、今後20年で100万種類の生物が死滅すると講演で述べました。)現在ではEUと中国が再生成的な循環型経済への移行を目指すことを宣言しています。

21世紀の中盤に向かっていくなかで、既存の社会システムが目的を満たさなくなってきていることに多くの人が気づき始めています。社会システムを再デザインしていくことも重要ですが、それを待っているだけでは未来は描けません。ビジネスやブランドが「社会に対して役割を持とうとする」行動を起こすタイミングがまさに来ています。米国小売大手のターゲットにCat & Jackという子供服のブランドがあります。すべての子供のためのデザインというコンセプトの下ですべての商品が障害を持つ子供にも適応できる服となっています。(たとえば、チクチクしないようにタグをつけない、車いすに乗ったままでも脱ぎ着しやすくする・・)身近かなところにも「困りごと」はまだまだあります。

カンターが発表したPurpose 2020 Reportによれば、パーパスを強く誓っているブランドはそうでないブランドと比べて12年間で2倍も早く成長しているそうです。「困りごと」を見つけて解決するという価値が上がっている証拠です。

干渉型から新型モデルへ

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2020年が始まりました。皆さんにとりまして輝かしい一年となりますようお祈りいたします。さて、年頭から驚いたことのひとつが年賀状や賀詞交歓会といった年始の挨拶の縮小です。ESG経営や働き方改革によって従来の慣習ややり方を一度リセットしてみようとする動きがいよいよ本格化していく気がします。マーケティング界においても今までの常識を捨てようとする動きがみられます。それは「マーケティングの意味すること」の再考です。

40年近く前に尊敬する指導教授から教わったマーケティングの定義は「売ることselling」ではなく、「売れるしくみを作ることmarketing」でした。ドラッカーも「マーケティングの理想は販売を不要にすること」と書いています。本質をとらえた言葉でこれは今も変わっていないと思います。しかし、現実これまで多くの企業ではマーケティングをブランド構築と収益増進のための活動ととらえてきました。そして企業のマーケティングの責任者がいわゆるCMO(chief marketing officer)です。そのCMOのポジションを撤廃する動きがこのところ欧米で広がっています。その理由は何か、大きなわかりやすい理由は今までのCMOがマーケティングを自分たちから一方的に発信する仕事だったため、世の中とズレが生じたことです。2015年にCMOを廃止したハイアット・ホテルは組織変更の目的を「集客および顧客エンゲージメントの活動により注力し、優先し、連携させていくため」としています。タコベルやウーバーもCMOポジションを撤廃しましたが、その理由として「消費者の多様なタッチポイントにまたがる一貫したメッセージを作ることが極めて重要になった」と述べています。CMOが行っていた仕事を最高成長責任者、最高体験責任者、最高ブランド責任者に分散する企業もあるようです。

一方でユニリーバ社のCEOアラン・ヨーペ氏は自社にはCMOが必要と述べています。グローバルの広告業界で知らない人がいないほど有名だったCMO、キース・ウィード氏が昨年5月に退任した後、次のユニリーバのCMOは従来のマーケティングにとどまらないより広範囲な任務を担っていくのではないかとみられています。この数年でコミュニケーションの方程式は従来の広告(デジタルも含む)から(テクノロジー×データ)+(コンテンツ重視)+(人間的要素をもったPR)に大きく変貌を遂げつつあります。ユニリーバ社をはじめ多くの企業は新しいCMOを探すにあたってどんな人材を求めていくのでしょうか。

新たなCMOは「ブランドの軸にパーパスを置き、広告ではなく、コンテンツを作り、デジタルとデータツールを駆使してライトタイム・ターゲット・プレイスに消費者にメッセージを届ける・・・」だけでなく、「干渉型や依存型のマーケティング」から「ユーザーに時間を浪費させずに信頼を得るマーケティング」への転換できることが求められると思います。言い換えれば、AIと5Gでさらに多様化と細分化が進む社会においてマーケティングの本質を追求できる人といえそうです。

 

ハート・オブ・メンフィス

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令和元年も残り2日を残すだけとなりました。皆さんは年末をどのように過させていますか。新聞やテレビのワイドショーでは一年を振り返る番組やニュースにあふれています。そんな中で3日間の休暇をもらって人生で初めていつか行きたいと夢みていた米国メンフィスを旅してきました。我が人生の出会いにおいて比類のない宝、エルビスプレスリーがこよなく愛した街です。

メンフィスは米国の南部テネシー州にあって1910〜1930年代棉花産業で栄えた街です。今はFedexのスーパーハブを始め物流の大拠点となっています。もう一つメンフィスと言えば空港のロゴマークが音符からデザインされている如くアメリカン音楽の聖地でもあります。人種的に言えば、65%が黒人、州都のナッシュベルが白人の街でカントリーミュージックの都と呼ばれるのに対してメンフィスは「Home of the blues」と呼ばれています。クリスマス直前の日曜日、エルビスプレスリーの生誕地近く、テュペロにある教会のサービスに飛び入りで参加させてもらいました。そこはもう「Joy to the world』の世界、黒人だけの教会でゴスペルが説教と同化していました。

20世紀の半ば、アメリカが生んだポップミュージックは言うまでもなく世界に大きな影響を与えました。メンフィスではもちろんゴスペルやソウルだけでなく、カントリー、ブルース、ロックと様々なジャンルの音楽が流れていましたが、中でも1950年代に誕生したロックンロールを知らない人はいないと思います。ロックンロールの王様と言われたエルビスは1977年8月42歳の若さでこのメンフィスの地で世を去りました。今年はそれからちょうど同じく42年が経ったタイミング、私が旅に出た理由の一つです。メンフィスには彼の通った中学、高校、住んでいたアパート、レストラン、映画館、最初に大ヒット曲「ザッツオールライト」を録音したスタジオ、、、とゆかりのプレイスやストーリーが今もなお街中に溢れています。エルビスの死から5年後、20年間彼が家族、友人と住んでいた邸宅(グレースランド)が一般に公開されました。こちらは13歳からエルビスの音楽を聴き始めた私にとっては感慨無量、当時のオリジナルが至る所に残されていました。死後42年経ったあとこれだけのレガシーが保存されているのには驚きを隠せません。

さて、話をメンフィスに戻したいと思います。メンフィスを都市としてのブランドの視点から眺めてみると、その魅力はミシシッピー川のほとり、音楽とかつて栄えた産業の遺産、伝説、哀愁、郷愁といったエモーショナルな思いを味わえることです。トロリー電車や馬車も走ってるとは知りませんでした。米国の都市は一部を除いてダウンタウンの造りが似ているのですが、明らかにメンフィスにはある趣きがあります。一方、それ以上に感じたのは人の気配が少ない淋しさです。クリスマス直前の週末にも関わらず夜になってもダウンタウンに人がほとんど歩いていません。治安があまり良くないせいもあるでしょう。地元の方曰く、「今度暫くぶりに高層ビルが建てられる」とのこと、確かに新しいビルがとても少ない気がしましたが、根元の課題は人が集まらない、活気がないことではないでしょうか。

メンフィスにある20世紀初頭から半ばにかけてのアメリカンカルチャーの遺産や郷愁もこれからの人を惹きつける新しい魅力が無ければ、レガシーもレジェンドも今後維持できなくなってしまうと思います。ブランドが次の世代への価値創造が必須な理由と全く同じです。

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チャレンジャーブランドを考察する

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ヘルスケア、ホームケア、化粧品、飲料、衣料、などの分野にD2Cを中心とした新しいブランドが続々登場しています。ちょっとした米国でのバズワードなのですが「起業家精神が旺盛、機敏でスマート、市場の白紙の領域を見つけてエッジが立っている、データの利用も上手、干渉型でなく物語型、、」と定義されるブランドをチャレンジャーブランドと呼んでいます。これから日本でも名前は違えど増えていくのではないかと感じています。

今回はチャレンジャーブランドを通じて今後のマーケティングを少し考えてみたいと思います。まず、チャレンジャーブランドが誕生したきっかけは何か、今までとどこが違うのか。ひとつには商品やサービスのニーズを実現することがかつてより容易になったことがあげられます。全体の技術水準が上がってOEMやデザイン思考によって平凡に見える物事に対して優れたアイデアやコンセプトをもって、情熱のポイントを見つけ出し、ナラティブ(物語)があれば魅力的なモノを作れるようになりました。また、Eコマースの普及によって販売員やチャネルを持たなくてもダイレクトに顧客にアプローチできるようになりました。サブクリ型やシェアリング型のビジネスモデルの普及も昔との違いです。自らのニーズをもってカテゴリーを打ち破ることが得意なのでコアなファンを得やすいことも理由のひとつです。

チャレンジャーブランドの典型的なマーケティング手法はインスタグラム、ポッドキャスト、ペイドインフルエンサーなどを利用して口コミを行うことです。ストーリーを拡大し、定着し、愛着を獲得していきます。何といってもチャレンジャーブランドが従来のブランドと比べて有利な点は起業家的思考を持っていることです。自分自身がほしいと思うモノやサービスなのでブランドのストーリーテリングが明快です。たとえば、フルーツ入りフレーバーウォーターhintの創業者のゴールディン氏は起業エピソードの中で「以前はダイエットコークを愛飲していた。だが、その習慣を捨てようと思い、ミネラルウォーターにフルーツのスライスを入れて飲むようにした。すると肌の調子がよくなり体重も減った。飲料カテゴリーを見て自分自身が健康でいるための商品がなかった」と語っています。そしてチャレンジャーブランドの多くは賛同してくれたコアな顧客のファーストパーティデータを理解し、活用することで機敏に改良を行います。

では一方でチャレンジャーブランドにとっての試練とは何でしょうか。第一に当たり前ですが顧客獲得、継続的に新規顧客を獲得していかねばならないことです。ストーリーの規模を拡大していかねばならない時、長期的な顧客価値の追求と短期的な顧客獲得のバランスをとることは簡単ではありません。また、同様のライバルが出現して市場が飽和してしまう恐れもあります。さらに、天然や健康志向のブランドなど消費者からかなり厳しい目を向けられていて、たとえば女優のジェシカ・アルバ氏が立ち上げたオネストカンパニーはブランドとして使わないと公約していた一般的な化学成分が洗剤に入っていたことを新聞で報道されブランド拡大中に大きな打撃を強いられました。多くのチャレンジャーブランドが途中で勢いを失ったり、市場から消えていく理由です。

従来の大ブランドは既存メディアでのスケールモデルに拘ってきました。これはマス広告とリテールへの配荷力が絶大な力をもっていたからです。これからは従来の大ブランドがチャレンジャー型の戦略を今以上に取り入れていくと思います。一方で成長したチャレンジャーブランドは他のチャレンジャーブランドができない頻度とリーチだけでなく、規模をとる戦略を併用するでしょう。つまり、両者のマーケティングがお互い近づいていくのではないかと思います。