Brighten Brand Note - BBmedia inc. 社長 佐野真一のブログ

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自叙伝を読んで

「この本は読んだことあるかい。自叙伝の中では秀逸だと思うよ」と日頃から尊敬している方から差し出された文庫本が「忘れ残りの記」、吉川英治の四半自叙伝です。早速、一気に読んだところこんなことを感じました。自分の一生を振り返るにはまだ皆さん早すぎるでしょうが、こういう質問にしたらどうでしょうか。貴方の生まれてからの記憶で最初のものはいったいどんなものでしたか?と。先週金曜日に講師として出席したセミナーでモデレーターの教授が「人間の感覚は視覚よりも嗅覚や味覚のほうが原始的には優れていたのですよ」と述べておられました。自叙伝の中でもこんな文章がありました。「どういう場所に限らず、たとえば会合の食卓でもふと卓上の花の香りを嗅ぐと一応すぐそのころの追憶へ連想をもっていかれてしまう習性がある。花の香りに染められて通った頃の童心の幸福感が老いたる今もどこかに潜んでいるものだろうか」。そういえば好きな香りは幼児の時の経験に何か関係していますよね。

さて、大概の人の幼少の記憶はワンビジュアルに何か鮮明な印象として残っているのではないでしょうか。でも、果たしてそれがほんとうに最初かどうかはわからない。親から「こんなことがあった、お前は2歳のころこうだった」とずっと聞かされているうちにいつの間にか記憶が作られたのかもしれません。人は2歳以下の記憶はほとんどないそうですが、どれが最初の記憶かは定かではありません。「ぼくは誰かにおんぶされていた。そばに石段がある。その石段のうえに、緑色の窓があってその塗料の色だけがほかのどの映像よりもくっきり濃い。そこへ向こうから女の人が歩いてきた。きれいな人だった。おんぶされているぼくの頬に頬擦りして子供の乳の匂いっていいもんだわねえと誰かに言った」、これが吉川英治氏の最初の記憶だそうです。記憶の最初が自分の歴史の最初とするならば、今でも鮮明ないくつかの記憶を自分でも確認しておきたい気持ちに思わずなりました。吉川文学の原点でもある回想録です。