Brighten Brand Note - BBmedia inc. 社長 佐野真一のブログ

BBmedia inc. 社長 佐野真一のブログ

バイアスにチャンスあり

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今、世の中はバイアス(先入観)との戦いが激しさを増しています。以前のブログでAIについて留意すべき点として人間のバイアスがあると述べました。ダイバシティ(多様性)やインクルージョン(包括性)が叫ばれる中、それらを困難にしているのもバイアスです。バイアスが縮小するよりも拡大する方向に向かっているのはどういうことなのでしょうか?

理由として大きく2つあるのではないかと感じています。一つは過大な情報社会のもとで人間の処理能力の限界と無意識の中で行われる自分の興味・関心に偏在化した情報収集。もう一つがコンテキストがない断片的な情報によるイメージ想起です。モバイルの普及によって物凄い量の映像や画像がダイレクトに人間の脳に入ってくるようになりましたが、バイアスにとらわれないコンテンツもある一方で、バイアスを助長するコンテンツもモーレツに増えています。

そして消費者はこうしたバイアスの問題に気づき始めています。これはブランドにとっても見逃せない変化だと思います。なぜならばブランドのイメージづくりもまた人間の持つバイアス(先入観)と影響しあっているからです。たとえば、米国の調査では女性たちの半分以上が「メディアや広告の女性の描き方は間違っている」と感じているそうです。

ミレニアル世代の女性向け人気メディアRefinery29が行った「67% project」はまさにバイアスを利用したコンテンツと言えます。米国人女性うち67パーセントが着用する衣服サイズがオーバーサイズ、つまりUSサイズの〈14〉以上であるにもかかわらず、このサイズの女性がメディアで取り上げられるのはたった4パーセント以下だという事実に基づき3ブランドと共同でオーバーサイズの女性を表現するプロジェクトを行い大きな反響を得ました。すでに米国のファッションビジネスでも変化が起きています。女性向けアパレルのJ Crewでは服のサイズの見直しや年齢に対する多様性に対応しています。また、化粧品ショップのSephoraではトランスジェンダーのコミュニティを対象にした美容やスキンケアのワークショップが行われています。世界初のジェンダーフリーアパレルショップThe Phluid Projectではコミュニティに根ざして1週間に5回のイベントを開き、服のマネキンももちろんジェンダーフリーです。

Refinery29の最高コンテンツ責任者のエイミー・エメニッヒ氏は「ミレニアル世代の77%が特定のブランドとの結びつきを持っていません。つまり、ブランドがどのようなコンテンツを生み出すかにあたり、白紙の領域があるのです。でも結びつきがないというのは機会でもあります」と述べています。 

消費者や社会にあるバイアスをもう一度見直してブランドの価値をステレオタイプから脱してみることも時には必要ではないでしょうか。

進化するポップアップショップ

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ようやく梅雨明けとなりました。東京は低温の7月でしたが、アラスカのアンカレジでは32℃、ドイツでは42℃と猛暑を越えた異常気象が起きています。

さて、今回は新しいコマースの動きをご紹介したいと思います。ビービーメディアではTVCM、ウェブ、モバイル、映像、サイネイジのコンテンツにとどまらずポップアップショップ(期間限定店舗)を製作させていただいています。ポップアップショップの草分けといえば、ニューヨークの「STORY」。ご存知の方も多いかと思いますが、ロウアーマンハッタンの10番街と19番通りにある185平方メートルのコンセプトショップです。定期的にテーマを変えて雑誌の世界を実際の店舗で商品のキューレーションをストーリーと名付けて表現し、雑誌とブランドがスポンサーとなっています。入れ替えのための休業明けはいつも来店客で一杯になります。

「2011年12月にオープンした当初は受けいられなかった」とストーリーの創業者であるレイチェル・シェヒトマン氏は述べています。単に体験をするだけの場所でもなく単なるイベントでもないストアの考え方が当時はなかったからだと思います。昔のポップアップショップは「モノを売る場所を作る」ことを意味していましたが、今は「モノを売る体験」を作る場所になりました。バズフィードが展開するCampはさらに進化した試みを行っています。3か月ごとにテーマが変わる親子で楽しめる雑貨店で、Milk Barとのコラボしたカフェが中にあります。会員になるとヨガやモノづくり体験を隠し扉の奥にあるスペースで体験できるようになっています。さまざまなコラボしたブランドの特別な体験を気軽に楽しめます。

こうしたショップが好まれるようになった原因のひとつは普通の買い物であれば、オンラインで十分となったことです。むしろオンラインのほうが便利かもしれません。また、ブランド側にとっても自前でポップアップショップを作るよりもコスト面で有利なことがあげられます。ポップアップショップでブランドを現実世界に登場させて楽しませる発想は今後も増えていくと思われます。

ここで見逃してならない潮流は「消費者がバーチャル、リアルを問わず買い物に自分の時間を費やすことに対してより高い見返りを求めるようになった」ことです。

ダイバシティは可能性を広げる

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大阪なおみ選手、サニブラウン選手、八村塁選手など一昔前では予想できなかった日本人スポーツ選手の活躍ぶりです。身体能力の凄さを感じずにはいられませんが、これからのダイバシティの世界を予感するのは私だけでしょうか。

ダイバシティ=多様性という言葉について日本人はあまりピンときていない印象があります。もともと日本という国は単一人種で宗教観もそんなに違いがないことから人種について日頃あまり考えることがありません。従って世界で起きている宗教上の紛争や人種差別などの報道を見てもなかなかピンときません。SDG’Sの目標の中にある男女差別についてはどうかと言えば、長い間にわたる日本の社会システムの中で差別というよりも役割を区別してきた結果がまだ残っているといったイメージです。ところが男女平等の度合いを示すWEF2018年度版ジェンダー・ギャップ指数によれば、149か国中日本はなんと110位。女性の地位を経済、政治、教育、保健・医療の4分野で分析した数字です。こちらもおそらく日本のリーダー層の多くは何故こんなに低いんだろうと感じているのではないかと思います。

日本と比べてもっと女性が世界で活躍しているこうした事実に対してピンとこない理由はいったい何故でしょうか。島国であること、一度も他国に侵略されたことがないこと、言語をはじめ独自の文化を持ち、誇りを持っていること、など長年積み重なってきた日本人の感覚、そして世界を知らないという勉強が足りない部分があるのではないでしょうか。

一方で、日本人は過去から現在にいたるまで新しい文化や技術、新しい思想まで熱心に受容してきました。多様性を受け入れる素地は十分に持っていると言えるでしょう。問題なのは人に対してです。まだまだ性別や人種の違いに限らず、年齢、国籍、宗教、学歴、価値観などにバイアスをもって、結果としてモノの見方を狭くしていると感じます。こちらは外国人のみならず日本人どうしでもいえることです。しかし、すでに人口減が始まっている日本では、多様性をもう一段高めなければ広く人材を活用することができなくなります。変人をどれほど生かせるかがポイントかもしれません。また、社会のマイノリティの気持ちに応えることも考えなくてはいけません。特に日本にとってフロンティアなのは高齢社会の先頭にたって年齢のダイバシティに取り組むことだと思います。

ダイバシティを受け入れていくには自ら鍛えなければならないことがあります。まず、バイアス=偏見を捨てて聞く力を高めること。もう一度自らを見つめて他者と自分の違いをお互い認め合う感覚を身につけること。そして多様性を保ちながら、コアな価値を共有して高めあえることです。個人にも企業にもそしてブランドにも共通して言えることだと思います。

 

 

 

 

 

ブリック&モルタル2.0

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奇妙なことが起きています。それはEコマースによってリアルな店舗が篩にかかられている一方、オンラインのみで成長してきたブランドのうち少なからずがリアル店舗を作り始めていることです。米国ではアマゾンブックス、アマゾンGO、アマゾン5スターズは有名ですが、眼鏡のワービーパーカー、アパレルのボノボス、エバーレーン、シャツ専門のアンタックイト、女性向けシューズのマルゴーなどリアル店舗なしでブランドパーパス、デザイン思考、顧客データ分析などを武器に市場シェアを獲得してきたブランドが次々とリアル店舗を展開しています。一見非効率と思われるリアル店舗を何故出すのでしょうか?

先週、米国出張の際にいくつかのブランドを訪問してきました。店によっては行列ができているほどでしたが、一方すでに閉店していたブランドもあり、一概に上手くいくとは言えないようです。ジェネレーションZに超人気の化粧品ブランドグローシャーは開店直後にもかかわらず店に入るまで20分待ちました。入っていくとブランドのイメージカラーであるピンクの世界、まるでテーマパークの中の店舗のような雰囲気でした。店員の制服は薄いピンクのつなぎです。眼鏡のワービーパーカーは自宅で思う存分できる試着と品揃えの特徴を店舗でも実現していました。まだ、短い歴史にも拘わらず、中央のショーケースには他とどう違うのかブランドストーリーが堂々と語られています。両店ともブランディングやPRのリアル店舗での徹底ぶりが見てとれました。マーケティングミックスにおいて他にない体験をリアル店舗を通じて顧客に届けようとする狙いです。でもこれだけが理由でしょうか?

実は他にも以下の理由があげられます。

①オンライン広告のパワーが以前よりも落ちてきた中で数多いオンライン専用ブランドと差をつけられること

②オンラインに負けて閉店や倒産する小売業者が出た結果、モールやスペースが空いて家賃が安くなったこと

リアル店舗の方が返品率が低く、またオンラインブランドは従来の小売りよりも店舗に在庫を置かずにすむので小さめのスペースですむこと(試着だけの店もある)

④わざわざ来店する顧客はオンラインよりも多額の購入をすること

などがあげられます。

こうしてオンラインのブランドにとってリアル店舗を展開することが長期的な成長のために重要となったのです。 ただ、店に入るのに行列しなければならないというのが長続きするとは思えませんが。

 

青梅で出会った幸せ

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平成の終わりとともに、吉川英治記念館が3月に閉館しました。42年間の歴史に幕を閉じるとあっていつか訪ねたいと思いながらパスしていた自分を反省し、閉館を目前に青梅まで行ってきました。吉川英治と言えば、宮本武蔵や新平家物語などの作品をはじめとした昭和の大作家、昭和生まれの日本人にとって知らない人はおそらくいないかと思います。この記念館は英治の死後だいぶ経った昭和52年3月、当時の講談社の野間社長の発案で吉川文子夫人の賛同を得て開館しました。戦時中の昭和19年に一家が疎開してから9年半を過ごした場所でもあります。椎の木のある庭園と築100年以上の古民家とともに当時の吉川家の生活が偲ばれるだけでなく9000点に及ぶ資料が保存されていました。

私自身、吉川文学の大ファンという訳ではないのですが、吉川英治の言葉や生き方に昔から深く共感しています。例えば、今失われている日本人の幸せ感についてこんな名言があります。「登山の目標は山頂と決まっているけれど、人生の面白さは山頂にはなく、むしろかえって山の中腹にある」つまり、幸せのゴールはなく、今現在にある。という考え方です。他にも「晴れた日は晴れを愛して、雨の日は雨を愛す」、「職業に貴賎はない、どんな職業に従事していてもその職業になりきっている人は美しい」、「人と人との応接は、要するに鏡のようなものである。傲慢は傲慢を映し、謙遜は謙遜を映す」、など、人の幸せは人の心のどこかに常に存在し、心の持ちようで決まるというポジティブシンキングに通じる言葉です。

結婚式のスピーチでよく引用する吉川英治の言葉があります。これは尊敬する先輩ご夫妻からかつて教えていただいた「忘れ残りの記」を読んで、あとがきにある文子夫人の回想録に書かれていたご家族でゴルフをした時の一節から拾ったものです。

「文子、僕らは幸せだなあ・・・人間というものは身近にある素晴らしい瞬間を幸せと気づかずに過ごしてしまう。なんでもないと思って見過ごしてしまう幸せをかみしめることが大切なんだ。」

記念館を訪れた際、屋根裏部屋を見学させていただいたら英治が使っていたゴルフクラブがなんとそこに置いてありました。ゴルフ場の陽だまりの情景が思わずふと目の前に浮かんできました。

信頼のスコア

 

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人は何かを信頼したいという気持ちを持たずにはいられない動物です。一方で、世界的に大規模な「信頼危機」が起きています。米国では、政府に対する信頼が30%ダウン、メディアに対する信頼が23%ダウン、ビジネス(企業)に対する信頼が20%ダウン、NGOに対する信頼でさえも22%ダウンという有り様とエデルマン社のジェイミー氏が述べています。

こうした信頼低下を表す数値の根底には何があるのでしょうか。原因の一つは「情報に対する不信感」の存在ではないかと思います。特にインターネット上で広まるニュースにおいて信頼できる組織や人によってプロデュースされているのかはっきりせず、出所までよく確かめずになんとなく刷り込まれていきます。日本人はかつて太平洋戦争中、大本営発表という虚偽の報道によって多くの国民が騙された苦い経験を持っています。今は出所は一つでなくなった反面、情報の量、スピードについていけなくなった多くの人々が悪意を持った発信者に惑わされています。また、フェイクやなりすまし情報も依然として見分けがつきにくい状況です。

こうした中でブランドは今、何をすべきでしょうか。まず、信頼を社会のニーズと捉えなおすことだと思います。不信や混乱に対して顧客は自分が使うブランドに信頼をより求めていきます。従ってブランドはコンテンツやコミュニケーションをより掘り下げていく必要があります。つぎにブランドはより善良でなければなりません。ロイヤルティ構築のための社会貢献ではなく、「これをするのは良いことだから」という人格が信頼につながります。そして顧客や社会とのアクセシビリティをより高めながら信頼の企業文化を育んでいくことが重要です。米国最大のドラックストアのひとつであるウォルグリーンは創業者チャールズウォルグリーンの「やさしさ」と「親切」を信条として、現在も障害を持つ従業員数が最大規模の企業の一つです。倉庫で働く人々の11%が何らかの障害を持っているそうです。他にも地域のコミュニティとの連携や国連と共同で3千万人の子供にワクチンを毎年提供しています。こうした活動を行っている企業やブランドはたとえ不祥事が起きても迅速な対応ができるとともに顧客や社会から復活の応援も得やすくなるのではないかと思います。

つながりあった世界で生きる消費者は本当は混乱ではなく、平穏を求めています。今後世界は精神的健全性を守り、デジタルのノイズからある程度距離を置きながら便利さや快適さを追求していく方向により進んでいくと思います。

ハサミとAI

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人間は太古の昔からいろいろな道具を発明してきました。その中で今も秀逸な道具のひとつがハサミだと私は思います。現存する最古のハサミは紀元前の古代ギリシャ時代のものとされ、日本で洋バサミと言われる形状が生まれたのは西洋では古代ローマ、東洋では唐の時代といわれます。誰もが幼児のころから使っている道具は無意識でも扱えるだけでなく、失くしてみないと有難さすら感じなくなる必需品となります。これを現代に置き換えてみましょう。可能性からいえば、これからの身近な道具の筆頭はAIを搭載したIOTではないかと思います。AIスピーカーをはじめハイテク道具を幼児から接して大人になった人間は以前とは違う感覚を当たり前のようにストレスなく無意識に持つようになります。ただ、ハサミのように何世代にも渡って身近に使われている道具はそんなに多くありません。果たしてAIスピーカーとどのくらい長く人類は付き合っていけるのでしょうか。

ハサミと言えばあるAIのレポートを読んでいてふと興味深い記述を見つけました。「ハサミは何世紀もの間、右利き用に設計され、右利きの人に使用されていました。それがバイアスであること、左利き用のハサミを作る必要性をなかなか認識されなかった」へえ~。今も左利きか右利きかでもっとも違いがある文具のひとつがハサミです。ハンドルの形状が違うだけではなくて2枚のハサミの刃の合わせ方にも違いがあるそうです。きちんと切り口が見えるか、指の力がしっかり伝わるか、左利きは人口の10%と言われます。人は主流派、メジャー側にいるとマイナーなグループの体験には気づきにくいのです。

近い将来、あらゆる規模の企業がディープラーニングを使ったソフトウェアでデータを収集し、人間の目では見つからなかった有益な情報をアウトプットするという楽観的な見通しだけでは甘いような気がします。AIはデータの良しあしによって決まります。データにはバイアスがあり、その正体は人間の偏見から生まれています。現状もっともパワフルなアルゴニズムでさえ公平・公正の定義に対して最適化されていないのです。ということはAIテクノロジーのバイアスも人間と文明と同じぐらい深いと認識すべきです。