Brighten Brand Note - BBmedia inc. 社長 佐野真一のブログ

BBmedia inc. 社長 佐野真一のブログ

消費者と呼ぶのをやめよう

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雨降る日曜日の午後、話題の映画「ミナリ」を鑑賞しました。すでに本年度アカデミー賞で作品賞をはじめ6部門にノミネート、A24とPLAN Bという新進気鋭のプロダクション作、韓国人一家が米国に移民して成功を夢見る中での挫折と家族愛を描く表面的には地味な内容なのに絶賛されている、という点で興味を持っていました。まさに「幸せ」とは何かについて、深く、美しく、切なく、国や人種を越えて語りかける力を持つとても素敵な作品でした。

映画は1980年代のアーカンソー州の田舎、とても農業に恵まれているとは言えないような土地が舞台、アメリカンドリームを幸せとイコールに考えながら貧しさを耐えて逞しく生きる移民家族の姿、夫婦間、子供から親、親から子供、おばあちゃんから子供や孫、子供や孫からおばあちゃん、それぞれの視点からの人と人、人と家族との思いが丁寧に描かれていました。昨年のアカデミー作品賞に輝いた韓国映画「パラサイト」も貧富の格差を半地下の家族を通じてブラックコメディ&ミステリータッチに描いた作品でしたが、「ミナリ」も同様の社会問題が根底にあります。舞台は米国ながら貧しい社会風景は一緒です。只、両作品の間には大きな違いがあります。それはまさに作品自体というよりもビフォアコロナとアフターコロナによって受け手である人々の気持ちの大きな変化です。一言で言えば、COVID19で痛みつけられた世界の人々の心を癒す(一言で表現しにくい)スペシャルさをもつ映画となったのです。

「ミナリ」ではおばあちゃんの存在がストーリーに深みを醸しだしています。今、日本では2025年になると全人口に占める高齢者比率が約30%に達する見込みです。日本のDX化が米国と比べてなかなか進まない理由のひとつであるとも言われます。なぜなら米国では2025年ミレニアム世代とZ世代を合わせると75%になることからデジタル世代にフォーカスして一気にデジタル化を進められるという意味です。果たしてそうでしょうか。むしろ高齢者といってもこれからの60歳と70歳と80歳では健康・仕事・家族・生活環境は全く違います。高齢者をステレオタイプ化せずいかにDXで対応していくかの方がはるかに重要かと思います。なぜなら日本の場合は高齢化比率が高く、消費も当分活発なのでこちらを後回しにするのは得策ではありません。さらに、コロナを経て今以上に「人が人を想う」、「人の思いを感じる」、そこから生まれる感情や行動に価値がある世界が間違いなくやってくる気がします。DXが人々に幸せをもたらすためにあることを忘れてはなりません。ブランドにとってはコンシュマー=消費者という呼び名をやめて一人のヒューマン、パーソン=共感相手としてみなしていく時が来ています。

 さて、映画の感動に浸りながらエレベーターを降りて映画館を出たとたん、ユニクロが目に飛び込んできました。早速、店に入ってAIRismマスクを手にとりセルフレジで決済、たった5分で買い物終了、再び外に出て自分が「現代人だな」と思わず感じてしまいました。

 

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何を知らないかを知らない

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先日何人かとリモートで話をしていた際、フードロスの話題になりました。そこで驚いたのが「まだ食べられるのに捨てられてしまう食べ物」の半分は家庭から出ているという発言でした。「えー、ほんと」、それまでホテルの立食パーティやコンビニの賞味期限切れのおにぎりのイメージが強く、業務用での売れ残り、食べ残し、などが圧倒的かと思いこんでいました。農林水産省のデータを見て見ると日本の1年間の食品ロス612万トンのうち、事業系は328万トン、確かに半分近くの284万トンは家庭からの食品ロスとのこと。家での料理の食べ残しや使わずに捨ててしまう材料、言われてみると我が家でも賞味期限切れドレッシングやレトルト食品に限らず、野菜の食べられる部分をどれほど捨てているか、意識がなかったと言わざるを得ません。

驚愕の事実と言えばもうひとつ、全世界の人口のうち25億人に処置していない虫歯があるそうです。米国では6歳から11歳の子供の約半数が何らかの虫歯があり、乳歯で虫歯になると、大人になってから永久歯で虫歯になる可能性が4倍に上昇すると言われています。100年人生にとってオーラルヘルスは極めて大切です。私自身も100点満点とは言えないまでも毎日80点以上の歯磨きをしていると思っていましたが、平均でみると1分程度、国によっても違いますが、日本では毎食後3分間の歯磨きを推奨しています。もちろん、長さだけでなく正しい磨き方をしているか、米国では正しく歯磨きを行っている人はわずか20%という話を聞きました。ここでも無意識の言行不一致があります。人々が正しい歯磨きをしていると思い込んでいる錯覚です。

P&G社はこうした人々の言っていることと行動の違いをデータに基づき、オーラルヘルス改善のイノベーションを起こしました。Oral-BiOという電動歯ブラシです。最新の磁石電動機を搭載したうえで、圧力検知システムによって強すぎると赤く、弱すぎると白く光ります。また、アプリと連動して口内の16のゾーンについてすべてよく磨けているかを指導し、良く磨けているとスマイルマークが表示される人間らしさも兼ね備えています。臨床試験の結果、この歯ブラシを使うと自然に歯磨き時間が2分55秒に伸びていたそうです。まさに45秒しか磨かなかった人々の習慣を変えることに成功したのです。

「自分が何を知らないかを知らない」、実は多くに共通する人間の特性です。今もなおマーケティングのヒントを生み出す鉄則と言えそうです。ブランドにとって、無意識のルーティンにあるニーズを見つけて喜んでもらう解決法をはかるチャンスはまだまだありそうです。

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「見やすさ」の重視

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「人々は一夜で変わってしまった。もう2019年には戻らない」とは先々週オールデジタルで開催されたCESにて基調講演を行ったベストバイ社の新CEOコリー・バリー氏の言葉です。

私事ですが、年始めの1月は古い手帳から新しい手帳に中身を移し替えます。皆さんも真新しい手帳に新しいスケジュールはもちろん、忘備禄や大切な部分を書き写したりしながら気持ちを新たにされているかと思います。今年、21年ぶりに手帳をリフィルを生かしつつもスタイルが違う厚手のモノに変えました。何故かと言えば、手帳をスーツの胸ポケットにいれて外出しなくなったからです。そういえば昨年はスーツやワイシャツ、ネクタイ、革靴すらも結局何ひとつ購入しませんでした。ほぼフルリモートワークとなったことでビジネスカジュアルがすっかり日常となりました。寂しい限りのことも生じました。昨年1月の段階で手帳に書いていた数度の海外出張予定はゼロに終わりました。おそらく海外出張はコロナが収束しても半分以下になるだろうと思います。

一方で新しく定着しつつある変化を見逃してはなりません。たとえば、イギリスのビヨンド・コンサルタンシー社とサヴァンタグループ社による合同調査によれば、65歳以上の回答者の58%が過去半年間でテクノロジーの使用が増えたと答えているそうです。2015年に誕生した50歳以上向けのメディアプラットフォームAgeistのデザインも明るく濃い色が中心となっています。メニューはトップページの上部にはっきりと表示して必ず2,3スクロール以内で下まで読めるようにしています。設立者のスチュワート氏曰く、多くのスクロールは高齢者に好まれないとのこと。興味深いのは高齢者が好むフォーマットとは、新聞と同じく直線的で明確な案内のあるデザインだそうです。また、高齢者かどうかにかかわらず、目の前の情報が読みづらいユーザーにとってはコントラストの調整が有効といえます。実際に国際空港内の標識は文字と背景色をコントラストを高い組み合わせにするため黄色と黒、白と黒を使ったりしています。

日本でも平井デジタル改革担当大臣が「デジタルを意識しないデジタル社会」を目指すと述べています。視力や手先が衰えたユーザーに対してはサイトを見やすく、使いやすくする企業の取り組みがより重要となります。

 

 

もうひとつの見えない進化

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今年のクリスマスプレゼントはオンラインで購入された方も多かったのではないでしょうか。

予想されたこととはいえ、今年のクリスマスや年末年始はコロナの再燃防止を強く念頭において過ごさなくてはならなくなりました。再び家で過ごす時間が増えそうです。日本だけでなく、世界中で。デンマーク玩具メーカー、レゴ社のネット売上高が大きく伸びたのも頷けます。新型コロナウイルスのロックダウン中に自宅でブロック遊びを始めた消費者が多かったせいか店舗が閉じていた期間があったにもかかわらず2桁の売り上げ増を記録しました。自宅で親子が一緒にレゴを組み立てる時間がパンデミック中は2倍以上だったことも独自の調査で明らかになりました。同社ECサイトのアクセス数は上半期に倍に増え、1億件を上回りました。

家具や家庭用品を扱うオンラインストア、ウェイフェア(Wayfair Inc.)では、37,173種類ものコーヒーカップを売っているそうです。この中から客が欲しいものを見つけられるよういかに手伝うかがユーザーの満足につながります。ウェイフェア社にとっての成功率であるユーザーが商品をカートに入れる回数、購入に至る頻度で測定すると、なんと過去5年間で50%も上昇したそうです。その秘密はアクセスしたユーザーにコーヒーカップのカタログ全体を閲覧するよう求めるのではなく、アルゴリズム人工知能がリアルな店舗の店員の代わりに「表示する内容を決める仕事」をするようになったからです。

オンライン小売業者の大半が活用している最新のツールはコンピュータービジョンと自然言語処理です。コンピュータービジョンは、視覚的なヒントを使ってサイトのバーチャルカタログに並べる商品を紐づけることができます。一方、自然言語処理は、買い物客が商品を検索して入力する言葉を集約し、学習していきます。高度なアルゴリズムにデータを組み入れて検索と推薦(レコメンデーション)の精度を高めています。ほんの2、3年前には想像もできなかった正確さで、予測モデルが成り立つようになったのです。

コロナ禍が収束した後もオンラインショッピングの優劣はより経営に大きなインパクトを及ぼすようになると予想しています。そこには見えざる著しい進化があるからです。まさにオンライン・レコメンデーションの進化です。

 

強者には優しさが必要

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熱狂的とまではとても言えませんがアップルとの付き合いは25年以上となりました。90年代初頭に購入したマッキントッシュとの出会いにはじまり、自宅からISDNで繋げてピーという音でインターネットを始めたのもマックからでした。初代iphoneを手に入れたのが今から13年前、以来6機種目となるのでだいたい2年で切り替えてきた計算になります。そして先日、満を持して5Gへの対応可となるiphone12を買い求めました。使い始めて大きく感じた前機種との違いは電源が長持ちになったこととカメラの性能が予想以上だったことでしょうか。

さて、iphone12にはもうひとつマーケターにとって注目すべきことがあります。ご存知の方も多いかと思いますが、最新OSであるiOS14を搭載した新機種はデータの所有権と主導権はユーザー側が持つという方向をより鮮明にしました。プライバシー設定メニューに新しくトラッキング項目が追加されて「Appからのトラッキング要求を許可」ボタンができたのです。これをOFFにするとユーザーのappを通じて収集された情報を第3者によって収集された情報と組み合わせてapp開発者がターゲティング広告に利用することができなくなります。

この動きに対してフェイスブックはデジタルマーケティングを支える自由なデータの流れを支持してアップルの排他的な性質を非難しています。確かに日本のようにiphoneのシェアが高い国で多くの人々がトラッキングを拒絶したら従来のターゲティング広告は80%パフォーマンスが落ちるとさえ言われています。アップルはユーザーのプライバシー保護機能を強化していく流れに沿ったうえで広告配信を行うだけでなく、警察がiphoneのロック解除を要請しても拒否する姿勢を取っています。

こうしたユーザーに対する保護姿勢の一方で、アップルのApp Storeについては独占的支配力が批判されています。App Store内での有料アプリの売上・アプリ内課金への高い手数料、ライバルのサービスへの妨害、などです。でもこちらはアップルに限ったことではありません。グーグルでは検索結果を自社サービスに有利に表示しているのでは? アマゾンではマーケットプレイスの情報からプライベートブランドを開発しているのでは? といった具合です。こちらはユーザーには見えにくく、かつ直接利害が生じにくい部分と言えます。

ビジネスを考える際「消費者が喜ぶことを追求する」ことを徹底して差別化した結果、独占的な支配力を持ったブランドはいわば成功者です。しかし、支配的な地位や力を持つと歴史を見れば明らかなように必ず驕りや強権が出てくるものです。

そういえば今年大ヒットしているアニメ映画の中に主人公の母親のこんなセリフがありました。

「強く優れた人の使命とは弱い人、困った人を助けること」そのために生まれてきたんだよ、と。

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リアルとデジタルを近づける

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男性44歳、女性45歳、この数字をご存知でしょうか。なんと20世紀になりたてのころの日本人の平均寿命です。2020年の同数字は男性81.41歳、女性87.45歳、120年で2倍近く伸びたことになります。60歳の還暦の重みは寿命の観点から大きく変わったのは当たり前と言えます。人間はいったい幾つまで生きることができるのでしょうか。一説によれば平均寿命は120歳ぐらいまで伸ばせるとか。長生きできるだけでいい訳ではありませんよね。今は平均寿命よりももっと大切な指標があります。それは健康寿命(元気に自立して過ごせる期間)です。日本でも20年後の2040年に健康寿命を現在よりも3歳伸ばすことを目標にしています。

COVID-19は世界中の人々の健康意識を一気に高める副作用を及ぼしました。あまり神経質になりすぎてはかえってストレスを生じかねないと思いますが、自分で健康チェックすることは容易く行なうようになりました。一つは自分自身の健康リスクをデジタルで見ること、もう一つは健康(加齢)状態を経年的に見ることです。前者で言えば健康ニーズに対するデジタルでサポートするデバイスやアプリの性能が上がったばかりか積極的にデジタル空間とリアル空間との行き来(オンライン診療など)がより平易に行えるようになりつつあります。また、経年的に見ることで近い将来を予想して前もって手を打ったり、異常かそうでないかリスクをしっかり判断することができるようになりました。すでに日本では40~70歳の53%が健康診断を受けているそうです。

肥満や高血圧への注意喚起、動物性脂質の取りすぎ、植物繊維・カルシウム・鉄・ミネラルが少ない、高齢者の低栄養、運動不足、、など改善を促す情報やサービスにあふれかえっています。しかし、健康業界に限らずリアルとデジタルにおける顧客接点を上手くつなげているブランドはまだ少ない気がします。リーバイス社は5月からネット注文を流通センターからではなく直営店から発送する仕組みに切り替えました。消費者体験のデジタル化は定着するもののリーバイスのようなブランドはスタイリストと1対1で交流し、ブランドとお客さまが直接結びつくことを重視しなければならないからだと述べています。同じくEコマースでD2Cの売上を14%伸ばしたレゴ社はパンデミック中にも中国や新興国で新店舗のオープンを続けました。これは新興国では幼少期にレゴ遊びをしたことのないまま親になった消費者が多いのでブランド構築に重要との考え方に基づいています。「レゴ・スーパーマリオ」はリアルとデジタルの遊びを融合したものです。

お客さまのことをよく知ることは今も昔もビジネスのポイントであることは変わりません。

 

60日が人を変える?

 

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「習慣をつくる」ことは昔からマーケティングにおいてもっとも重要な視点をひとつです。今年はコロナ感染のパンデミックによって随分と新しい習慣が生まれました。たとえば、多くの日本人は今まで習慣がなかった検温を3月後半から毎日行うようになりました。体温について「自覚症状があってから測るから自覚症状の有無にかかわらず測る」に切り替わったわけです。すると今まで気にしなかった自覚症状以上に体温の変化を気にするようになりました。マスク着用、手洗い、消毒、密を避けるもほぼ習慣化しました。

「ある行動が60日間続けば、それは日常生活に定着する」とは除菌・掃除ブランド「Lysol」を持つレキッドベンキーザーCEOの言葉です。ヒルトンホテル、デルタ航空、レンタカーのエイビスなどは米国でレキッドベンキーザー社と提携して、消費者を安心させる新しい衛生慣行、清掃業務の導入を開始しました。ヒルトングループはグループ内の18ブランド全体で有する6100拠点のホテルで新たに導入した清掃プログラムを宣伝しています。デルタ航空ではライゾールのスプレーや付記掃除用品の購入に加えて、ライゾールブランドと手を組んで、消費者調査に基づいて空港および機内用の新しい消毒用品の開発を進めるとのことです。いずれも新たな習慣を安心に変換してブランド価値につなげるのが狙いです。

実はビジネスにおいて「習慣をつくる」から「習慣を定着化させる」ことのほうがもっと大切であり難易度が高いと言えます。たとえば、会員制やサブクリのビジネス手法はこれを狙ったものです。P&Gのファブリーズのマーケティングでは「Habit Creation」:ファブリーズを使う習慣を創り出すことを課題としながら、定着化に向けて実際に使っているユーザーから多彩な使用シーンを教えてもらい、それをTVCMの表現に活用しました。すでに使っているユーザーにとっては「そんな使い方があるならば試してみよう」という提案になったそうです。ご存知のように今や「ファブリーズする?」というのが室内除菌スプレーの代名詞になりました。

さて、コロナウイルスの感染が収束した時、マスクを人々が外すことができるようになった時、今起こっている新しい習慣はどのくらい変化するのでしょうか。考えるヒントのひとつとして「行動が無意識なのか、それとも意識をして行っているか」のどちらかによって異なる気がします。無意識に行う習慣はスピリチャルな部分も含めて心地がよいかどうか?意識している場合は費用対効果を含めて満足を自覚し続けているかどうか?に左右されるでしょう。

「習慣は人を変える」というぐらい良い習慣を持てるかどうかは人生に影響を及ぼします。ブランドも人の良い習慣をつくる、そして定着させるという発想をもっと広げてほしいと思います。