マーケティングの活動は「創造的に適応する」ことだと有名なハワード教授が半世紀も前に述べたそうです。最新号のマーケティングジャーナルの巻頭言で石井淳蔵さんがその例を次のようにわかりやすく紹介してくれています。
お母さんが風邪を引いて、あなたに「風邪薬を買ってきて」と頼んだとしよう。そのとき、あなたはどうするだろう。頼まれたとおり風邪薬を買ってきて「はい、これ」と渡して終わるだろうか。そうではないだろう。お母さんの病状を確かめながら、してあげられることを探るのではないだろうか。ロボットのように言われたことだけをやるのは創造的でない適応である。P&Gはボールドとアリエールという2つのブランドを持っている。かつては両者の位置づけがはっきりせず、シェアが低下していたが、洗濯に対する主婦の感覚、つまり「きっちり洗濯をやりたい」と「楽しくやりたい」の違いに目をつけてリポジショニングしたところ、市場がそこにできた。この場合、洗濯に関する主婦の「すでにあった欲望に適応した試み」なのか、それとも主婦の「新たな欲望を創造した試み」なのかははっきりしない。しかし、これが創造的適応である。
この事例は創造と適応という矛盾しながら、時にはどちらかわかりづらくても、2つを意識する大切さを示していると思います。さらに創造的適応はマーケティングの世界だけに限らないと考えます。企業にとってもそこで働く個人にとっても自分で変えることができる環境と変えることができない環境があります。環境を変えていく創造と環境に自らを合わせていく適応、その狭間から多くの成功が生まれるのではないでしょうか。