ちょうど今から20年前の1998年5月、プレジデント誌に村田昭治の最終講義「マーケティングの神髄」と「自らの生き方」を語ると題した記事が掲載されました。大学時代の恩師村田昭治先生が慶応義塾大学教授を同年3月に退任なされたタイミングでひとつの集大成的なインタビューだったのではないかと思います。
先生はマーケティングの神髄は4つあると述べておられました。4つとはイノベーション、個性、ローコスト、ポリシーです。中でもイノベーションの重要性を第一にあげられ、これは技術に限ったことではなく、あらゆることに通じるものであると強調されています。そして、人より先に何かに挑戦してみる、少し難しいことであっても挑戦してみる情熱を持たねばならないと我々に教えてくれました。
また、先生は「上手く生きるより良く生きろ」とよくおっしゃいました。かつて映画監督の鈴木清順さんが脱サラしたあと北海道でとてもおいしいと評判の牛乳を作る牧場主に何故そんなにおいしい牛乳を作れるようになったのですかと尋ねたそうです。牧場主は「美味しい牛乳を作ろうと私自身思ったことはありません。ただ、牛たちに、おい、タロウ、元気か?ハナコ、今日も幸せか?と毎日聞いています。きっとうちの乳牛たちはみんな幸せなんですよ。だからおいしい牛乳を出してくれるのでしょう。」この例え話の如く人を想う気持ちを失ってはいけないという人としての原点の教えでした。
20年ぶりに読み返してみると当時の世紀末の状況と今との違い、その後に起きた大きな事件や人々や社会の変化、新たな課題等はありますが、マーケティングや人の生き方のエッセンスは変わっていないと改めて感じます。むしろ、イノベーションや社員の幸せといったテーマはより大きくなっている気がします。時を経ても色あせない言葉には力がありますね。先生がハーバードで学んだ「wisdom can not be taught」の深い意味を再び思い出すことができたのをはじめ、自分が年齢を重ねたせいか、当時よりもむしろひとつひとつの言葉をじわりと心に刻むことができました。