Brighten Brand Note - BBmedia inc. 社長 佐野真一のブログ

BBmedia inc. 社長 佐野真一のブログ

人が買い物に求めること

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「現代の買い物客は何を求めているのでしょうか?」この質問に答えるにあたってウォールマートの最近の動きを見てみましょう。アマゾンが台頭する中、ウォールマートは米国内4000店舗のうち1000店舗以上で食品などの注文をドライブスルーで受け取れるサービスを導入、数百店舗には自動キオスクを設置しています。先週訪問したウッドブリッジにあるウォールマートは2年前まで店の一番奥にあったオンラインで注文したものを受け取るPICKUPコーナーが店を入ったレジ近くに移動していました。

ウォールマート流に言えば「お金の節約とよりよい生活」、食品スーパーで言うならば実店舗における「清潔・迅速・フレンドリー」+「価格・品質」だけでなく、今までに加えて「新たな利便性」を誰もが求めるようになったのです。小売の未来に影響するさらなるテーマとしては「情報・商品・サービスのオンデマンドでの入手」、「商品やサービスに面倒でなく快適にアクセスできる可能性向上」が取り上げられています。Walmart.comでは買い物体験の改善に向けてHave it  Find it  Display it  Price it  Deliver it といった5つの指標(customer value index)を設けています。

こうした動きの底流には実店舗とオンラインの垣根を越えて消費者の習慣が変化し続けている状況があります。テクノロジーの進化が後押ししているわけで日本でも近々急激に高まることが予想されるキャッシュレス化もそのひとつです。

さて、ここでもう一つ現代の消費者が買い物に何を求めているかについて述べたいと思います。それは「偶然の出会い」、「発見する体験」だそうです。今に始まったことでない気がしますが、利便性が高まるほど逆にクローズアップされるのかもしれません。確かに興味深い商品の新たな発見は予想外であるほど嬉しいですね。ちょっと逆説的ですが、きっと偶然だからに違いありません。では、偶然を必然に変えるにはどうすればいいのでしょうか?たとえば、9月にニューヨークにオープンしたばかりのアマゾン4スター、ここは文字通り購入した人のレビューが高い商品だけを品揃えしています。自分が知らない優れものを見つけるのは良い場所です。

一夫一婦は妄想と心得よ

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ブランドマネジャーにとって愛用者を増やすとともに自社ブランドに対する顧客のロイヤルティをあげる戦略は王道と呼べるでしょう。80:20の法則のセオリーからもブランドロイヤリティ戦略は正しいとされてきました。ライフタイムバリューを考えれば、ブランドへの忠誠心を持つユーザーを増やすことは売り上げ・利益ともにプラスに働きます。我が家では発売以来ずっと「南アルプスの天然水」を自宅で購入してきました。ミネラルウォーターだけで累計購入金額はなんと60万円以上という計算になります。

しかし、ロイヤルユーザーはマーケティング費用をどんなにかけてもそれほど多くはならないという意見があります。南オーストラリア大学のバイロン・シャープ教授が示したブランド理論は型破りで賛否両論あるものの目から鱗が落ちました。その中でもっとも印象深いのはブランドとユーザーとの関係です。ブランドマネジャーはブランドとユーザーの関係を「一夫一婦」と考えようと勘違いしますが、ユーザー側は基本「一夫多妻」としか考えていません。例えば高級腕時計市場を思い浮かべるとイメージがつかめます。パテックフィリップ、オーデマピゲをはじめずらりとブランドがあって、マニアの多くはいくつも所有しています。そう言えば、我が家の浴室には数種類のシャンプーやコンディショナーが無造作に置いてあります。歯磨き粉は3種類を朝・夜で使い分けています。イギリスにおけるコカ・コーラ購入者のおよそ半分は年に1、2本しか買わず、平均的なコカ・コーラ購入者でもせいぜい12本とのことです。ということは他の飲料ブランドを飲んでいるわけです。実際にコカ・コーラを飲む人の半数以上はダイエットコーク、ファンタ、ペプシも買っているとのことです。ブランドはヘビーユーザーを守りながらライトユーザーに少し多く飲んでもらうことに力を入れるべきと言えます。

これからの消費者は今まで以上にブランド側が決めつけたカテゴリーやブランド価値には従わないようになるでしょう。ブランドはユーザーの興味・関心がないジャンルでは購入判断を楽にしたいという潜在欲求に今以上に対応することが求められます。一方、こだわりを持つジャンルではTPOに合わせて自分なりの上質な生活シーンを送りたいとユーザーが欲する時に必要とされるブランドをより目指さなければなりません。人の世界と違ってブランドは常にユーザーに対して片思いであり、常に振り向いてもらう努力が必要なのです。

 

 

 

脱カテゴリー

 

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昨年伊勢で行われた菓子博に行った際、ご当地菓子の多さと日本人の研究熱心さに驚くとともに「昔から日本人は菓子好きなんだなあ」と改めて感じました。統計によれば、お菓子を作っている菓子やさんは全国で3万以上もあるそうです。お菓子は材料・加工・見た目、食感などのバリエーションをたくさんつけられるからだと思います。それから比べると飲料はそれほど多くありません。日本では他の国と比べて自動販売機が多いのでメーカーは違えど中身の違いがあまりないように思えます。

今、米国の飲料業界では大手ソフトドリンクメーカー、ビールメーカーが過去に例を見ないような大きなプレッシャーを受けながら、主にスタートアップが支配する新しいカテゴリーで競争に入ろうとしています。ホールフーズをはじめとした食品スーパーでは地元製造のオーガニックな飲料をはじめ、新たな派生商品にあふれています。旅行者のレベルではもはや何を選んで良いかわからない状況です。ペプシコの新CEOのラグアルタ氏は「消費者は味と栄養と便利さがそろう三角地帯へ移行しつつある」と述べています。コカ・コーラが買収したココナツウォーターZicoからはこの春コールドプレスジュース、ジンジャー、ターメリックなどを混ぜたココ・リクシルズという商品が発売されました。

従来の飲料カテゴリーに当てはまらない商品の出現、こうした流れは他の業界でもさらに広がっていく気がします。ローカルな市場とグローバルな市場がネット上で一緒になったこと、世界的な金余りによって資本が豊富になったこと、アイデアが今よりも迅速で安価に実現するようになったこと、デザインとテクノロジーが進化したこと、によって小さなブランドでも顧客の問題解決を行う独自性があれば成功する可能性が増しています。

データとプライバシーの新潮流

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2年前の夏、米国広告業界の大きな話題は初めてTVの広告費がデジタルに抜かれる広告革命でした。昨年はデジタルの巨人たち、GAFA(グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾン)のデジタルマーケティング業界での寡占化について、そして今年はデジタル広告の信頼性、正確性、効果測定への猜疑心が消えない中でEUの一般データ保護法が成立し、広告と個人情報保護の両立がクローズアップされています。

データとプライバシーはもはや一企業と消費者にとどまらず、国や地域、社会全体の問題と言えます。ルールと方針が変わったことで、今後ブランドはできるだけ直接的に消費者からデータを集める方法を模索するようになります。ファーストパーティデータの利用と重要性が高まることは間違いないでしょう。データの取得の巧劣が優れたマーケティングができるかどうかに直結する可能性があります。

実はインターネット登場以前からロイヤルティプログラムによって顧客情報を集めるやり方は存在していましたが、スマホとアプリの普及によって飛躍的に進化しました。航空会社、金融、外食など多くの業種でポイント獲得の引き換えに顧客情報を収集し、マーケティングに活用することはどこでも当たり前となっています。製造業においても顧客をコミュニティ化して、例えばナイキやレゴなどは新商品をファンのアイデアをもとにデザインし、それを限定販売したり、一番のファンに優先販売するやり方で成功しています。ここでも企業は顧客情報を利用してさらにPDCAを回しています。

一方で消費者は自分のデータを保護したいというニーズをより強く持つようになりました。オンラインのサービスに個人情報を提供しないためにサブアドレスや捨てアドレスを作っている割合が30%近いという調査数字もあります。プライバシーやセキュリティの面でビジネスを信頼するかどうかの業界別スコアで言えば、広告・マーケティングは最低レベルです。

ブランドは顧客のデータとプライバシーを再認識するとともに、顧客に不安やストレスを与えないこと。データの提供や同意によって得られるメリットについてよりわかりやすく説明して理解を得ること。この2つを同時に行わねばならない時代に入ったと思います。

 

都市=東京を想う

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何年か前、なんとも懐かしい写真集に出会いました。それは「オリンピックのころの東京」。(岩波フォト絵本) 1964年のオリンピックが小学1年生だった自分自身の記憶にはほとんどない写真ばかりです。それでも都電やオート三輪が走り、木造2階建ての家々が都心の大通りに面してたくさん建っていた頃、街の匂いやほこり、看板やお店の思い出が蘇ってきます。当時は世界の大都市と比べるには至らなかったと思います。山手線にウグイス色の車両が登場するかしないかの頃、東京はオリンピックによって大きく変貌しました。

あれから54年が経ち。2年後に2回目のオリンピックが東京で開かれます。今度はどんな風に東京は変わるのでしょうか。都市をブランドとしてとらえるならば、行きたい、住みたい、働きたい、と思えることはブランド力につながります。知事はより安心で、安全な都市「セーフ シティ」、誰もがいきいきと活躍できる都市「ダイバーシティ」、そして、世界に開かれた、環境・金融先進都市「スマート シティ」、この3つのシティの実現を目指すと宣言しています。ロンドンは前回のオリンピックを梃にして世界都市力ランキングを6年連続1位にしました。東京は現在3位、「文化・交流」、「交通アクセス」、「経済」、「研究開発」、「居住」、「環境」の6つの指標でトップはひとつもありませんが、大きな弱点もないようです。東京生まれの東京育ちで田舎を持たない自分にとって東京が世界一になることはもちろん嬉しいのですが、どうも何かが抜けているような気がします。

今、地球上で3つの大きな力(テクノロジー・グローバリゼーション・気候変動)が人々に大きな影響を与えています。不安や負の部分をいかに希望とプラスに変えられるか、これからの都市は「レジリエンス 強靭さ」、自発的治癒力を高めていく必要があると感じています。例えば、リノベーションがしやすいこと、エネルギーや交通の最適化がはかれること、住んでいる人々のネットワークがあること、そして愛される東京を想う強い心です。

それにしても2020年の夏、最高気温が40℃とならないことを祈るばかりです。

 

いつの時代も同じ

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今年は明治元年(1868)から起算するとちょうど150周年、そして平成が来年終了し、元号が改められます。日本人にとっては西暦とは違った日本の歴史を感じる瞬間でもあります。平成という30年間はちょうど一世代が入れ替わる期間と重なります。

ちょうど昭和と平成が半分半分の自分たちの世代(60)と親の世代(90)、子供の世代(30)、そして今新しく生まれてくる孫の世代(0)、さらに親の世代の2世代前までさかのぼるとなんと明治維新となるわけです。こうして考えると1世代30年として明治維新から数えて6世代目が始まろうとしています。

先月ニューヨークのデジタルエージェンシーの知人と昼食を一緒に食べていたら、「#ME TOO」の勢いが「Still Strong いまだに収まらない」と言っていました。テレビではニューヨーク州の検事、ネットワークテレビ局の有名人気ニュースキャスターやアンカーのハラスメントの報道が盛んに流れていました。今年のミスアメリカのコンテストでは水着審査を行わないそうです。特に50歳代以上の男性の倫理観と新しい時代の現実がコンフリクトを生んでいるという記事を読んでなるほどと思わざるを得ませんでした。

もし明治維新の時代に生まれていたら世の中の変化についていけただろうか? 歴史はあとから振り返るとなんてことないのですが、自分が仮に当時の武士だったら古い考えに囚われて時代に取り残されたのではないかと思ったりします。また、昭和の初めに生まれて戦争にいかねばならなかったら何を思っただろうか? きっと平和であってほしいと心底願ったに違いありません。人間の求める普遍的価値観は変わらない一方で、世代間ではモノの見方や考え方の常識が異なるのはいつの時代でも一緒、世代間のコンフリクトを経て若い次の世代がよりベターな世の中を作ることは歴史を見れば明らかです。これからも次世代の育成と応援を続けていきたいと思います。

再び心に刻む

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ちょうど今から20年前の1998年5月、プレジデント誌に村田昭治の最終講義「マーケティングの神髄」と「自らの生き方」を語ると題した記事が掲載されました。大学時代の恩師村田昭治先生が慶応義塾大学教授を同年3月に退任なされたタイミングでひとつの集大成的なインタビューだったのではないかと思います。

先生はマーケティングの神髄は4つあると述べておられました。4つとはイノベーション、個性、ローコスト、ポリシーです。中でもイノベーションの重要性を第一にあげられ、これは技術に限ったことではなく、あらゆることに通じるものであると強調されています。そして、人より先に何かに挑戦してみる、少し難しいことであっても挑戦してみる情熱を持たねばならないと我々に教えてくれました。

また、先生は「上手く生きるより良く生きろ」とよくおっしゃいました。かつて映画監督の鈴木清順さんが脱サラしたあと北海道でとてもおいしいと評判の牛乳を作る牧場主に何故そんなにおいしい牛乳を作れるようになったのですかと尋ねたそうです。牧場主は「美味しい牛乳を作ろうと私自身思ったことはありません。ただ、牛たちに、おい、タロウ、元気か?ハナコ、今日も幸せか?と毎日聞いています。きっとうちの乳牛たちはみんな幸せなんですよ。だからおいしい牛乳を出してくれるのでしょう。」この例え話の如く人を想う気持ちを失ってはいけないという人としての原点の教えでした。

20年ぶりに読み返してみると当時の世紀末の状況と今との違い、その後に起きた大きな事件や人々や社会の変化、新たな課題等はありますが、マーケティングや人の生き方のエッセンスは変わっていないと改めて感じます。むしろ、イノベーションや社員の幸せといったテーマはより大きくなっている気がします。時を経ても色あせない言葉には力がありますね。先生がハーバードで学んだ「wisdom can not be taught」の深い意味を再び思い出すことができたのをはじめ、自分が年齢を重ねたせいか、当時よりもむしろひとつひとつの言葉をじわりと心に刻むことができました。