ソーシャルメディア(SNS)はいつの間にか交流するためのメディアから娯楽やニュースを発信・閲覧するためのフィードに変わってしまいました。自分自身も昔は個人的なやりとりを中心に行っていましたが、今ではそうした会話は非公開のメッセージングアプリやグループチャットに移行し、SNSはもっぱら見る専門になってしまいました。アルゴリズムやAIによって個人の好みを収集し、同じようなジャンルやテーマばかりが流れるようになって、広告もずいぶん増えたと感じます。
ソーシャルメディアのマスメディア化に拍車をかけているのがTikTokだと言われています。かつてのテレビのチャンネルをザッピングするのと同じく、リモコンのかわりにスマホの画面を指で次々とスワイプするようになりました。他のSNSも追随してユーチューブでは「ショート」、インスタグラムでは「リール」でオーディエンスを巻き込むために動画を重視しています。今や地球上の人々のほとんどが手のひらサイズのパーソナルTVを持っている状況に変わりました。そして従来のTVとの決定的な違いは常にユーザーとともにあって万能情報ツールだということです。
SNS動画が飛躍的に増えた中での変化も見逃せません。TVメディアとスマホのSNSメディアの違いはプロが作ったコンテンツと個人が作ったコンテンツがTVではプロのみであるのに対してスマホのSNSは入り混じって流れてくることです。一部の専門家はいずれ「以前ソーシャルプラットフォームだったもの」と「従来のテレビネットワーク」と「従来の映画製作スタジオ」がより混然一体になっていくと予想しています。
マスメディア化とともに視聴者側も配信するプラットフォーム側もますます優れたコンテンツを求めるようになっていく傾向にあります。インスタグラムがTicTokに近づいていたり、TikTokが長尺の動画を取り入れてユーチューブに挑んでいたり、3社ともにプロの制作会社のコンテンツを増やしています。これらの動きはSNSメディアがTVのチャンネルを切り替えるように次から次へとコンテンツを見せて、TVのようにずーっと流れている世界を目指しているのかもしれません。
一方で鳴りやまないのはSNSメディアの有害性です。かつてTVも同じことを言われた時代がありましたが、SNSメディアにおけるフェイク・炎上・有害広告といった事象は日常茶飯事です。これはプラットフォーム側が元々自分たちは「場」を提供しているだけというマスメディアとの成り立ちの違いにあるような気がします。Meta社はThreadsというユーザーがルールを設定して有害なコンテンツをブロックできるようなモデルを開発していますがまだ初期段階です。こうした状況下でユーザー側の有害から逃れたいニーズはますます高まっていくものと思われます。人々は他者とつながり、買い物をし、エンタメを見るためのより安全で、よりパーソナライズされた空間を求めています。当然ブランドがとるべき行動もこうした文脈に沿った期待に応えていくことになっていくと思われます。