人は何かを信頼したいという気持ちを持たずにはいられない動物です。一方で、世界的に大規模な「信頼危機」が起きています。米国では、政府に対する信頼が30%ダウン、メディアに対する信頼が23%ダウン、ビジネス(企業)に対する信頼が20%ダウン、NGOに対する信頼でさえも22%ダウンという有り様とエデルマン社のジェイミー氏が述べています。
こうした信頼低下を表す数値の根底には何があるのでしょうか。原因の一つは「情報に対する不信感」の存在ではないかと思います。特にインターネット上で広まるニュースにおいて信頼できる組織や人によってプロデュースされているのかはっきりせず、出所までよく確かめずになんとなく刷り込まれていきます。日本人はかつて太平洋戦争中、大本営発表という虚偽の報道によって多くの国民が騙された苦い経験を持っています。今は出所は一つでなくなった反面、情報の量、スピードについていけなくなった多くの人々が悪意を持った発信者に惑わされています。また、フェイクやなりすまし情報も依然として見分けがつきにくい状況です。
こうした中でブランドは今、何をすべきでしょうか。まず、信頼を社会のニーズと捉えなおすことだと思います。不信や混乱に対して顧客は自分が使うブランドに信頼をより求めていきます。従ってブランドはコンテンツやコミュニケーションをより掘り下げていく必要があります。つぎにブランドはより善良でなければなりません。ロイヤルティ構築のための社会貢献ではなく、「これをするのは良いことだから」という人格が信頼につながります。そして顧客や社会とのアクセシビリティをより高めながら信頼の企業文化を育んでいくことが重要です。米国最大のドラックストアのひとつであるウォルグリーンは創業者チャールズウォルグリーンの「やさしさ」と「親切」を信条として、現在も障害を持つ従業員数が最大規模の企業の一つです。倉庫で働く人々の11%が何らかの障害を持っているそうです。他にも地域のコミュニティとの連携や国連と共同で3千万人の子供にワクチンを毎年提供しています。こうした活動を行っている企業やブランドはたとえ不祥事が起きても迅速な対応ができるとともに顧客や社会から復活の応援も得やすくなるのではないかと思います。
つながりあった世界で生きる消費者は本当は混乱ではなく、平穏を求めています。今後世界は精神的健全性を守り、デジタルのノイズからある程度距離を置きながら便利さや快適さを追求していく方向により進んでいくと思います。