Brighten Brand Note - BBmedia inc. 社長 佐野真一のブログ

BBmedia inc. 社長 佐野真一のブログ

脱炭素の混迷

今から9年前、ニューヨーク、ブルックリンにあるFilm Biz Recyclingを訪ねたことがあります。ここは映画やTV番組で使用したセットや小道具などをリセールしたり寄付したりする組織として2008年に発足しました。ハリウッドの映画産業は当時撮影が終わるとそのほとんどがごみになるといわれていました。そんな中、販売・再利用・寄付という活動を通じて活動期間中に600トン以上の物品を埋立地から転換したといわれています。残念ながら訪問してからまもなく後の2015年6月、Film Biz Recyclingはその扉を閉じたと聞きました。

今、気候変動や環境破壊に関するニュースは暗くなる一方です。国内外でいろいろな取り組みや意識を変える活動が行われていますが、事態はあまり好転しているように思えません。そこには根本的な課題を見落としているような気がします。米国の非営利団体(Climate Neutral)の測定によると、3つの種類の炭素排出(企業が所有する施設または自動車から直接的に生じる排出、所有している施設でのエネルギー使用から間接的に生じる排出、サプライチェーンで生じる排出)のうち3番目のサプライチェーンからの炭素排出が全体のなんと90%を占めるとのことです。企業単独では効果は限定的で少なくとも業界全体、さらには業界を超えた活動が必須といえます。

環境負荷が小さいと思われがちなデジタルの分野でもビジネスが複雑化するにつれて炭素排出量に対する懸念が高まっています。驚くことに全消費電力の約10%がインターネット通信にかかわっているというデータもあります。研究者の推定によるとオンライン広告はそのうち10%なので世界のエネルギー消費の1%を占めることになります。確かにストリーミングによる動画視聴やコンマ数秒のオンライントレードなど、莫大なコンピュータパワーと通信スピードが必要になりました。今注目されているメタバースも然りです。このように炭素排出削減や環境問題については知られざる事実がまだまだありそうです。

米国の生活者は太平洋に浮遊するプラスティックごみを集めるとテキサス州の大きさの島になるとか、ガーナの海岸に廃棄された衣服の山が積み上げられているといったニュースに対して敏感になっています。日本でもエコバックを始めとして今後同様の動きが活発になりつつあります。炭素排出削減に向けて企業だけでなく消費者行動の変更が同時に進まなくてはなりません。ところが多くの生活者が問題に気付いていながら、解決策を実感できないという大きなジレンマを抱えています。

一方、ブランド側もパタゴニアのようなパーパスから環境保全を謳ったブランドは稀有としても、原材料、プロセス、ビジネスモデルをサステナブルありきを前提にした事業に変換するところもあれば、グリーンウォッシュといわれる見せかけのレベルのブランドもあるのが現状です。根本的な課題として環境改善にかかるコスト負担をどうするかという議論がなされていないことが原因です。イギリスの広告協会は「Ad Net Zero」と呼ばれるイニシアチブを主導して、2030年までに広告の開発、制作、運用に伴う二酸化炭素の影響をカーボンオフセットとエネルギー消費の削減の組み合わせによって、ゼロにする取り組みを検討しています。

サステナブルありきの生活者がどのブランドを選べばよいのか、ブランドのほうも気候や環境問題への意欲をどう社会に伝えればよいのか、解決のスピードをあげるためにはもう一歩踏み込んでいかねばならないと思います。